基礎知識 2025.08.01 2025.08.02
「FAIRプロジェクト」とは?「FAIRパッケージマネージャー」が目指す分散型アプローチの概要・背景を解説
2025年6月、オープンソース技術を支援する非営利団体のLinux Foundationは、WordPressにおける「FAIRパッケージマネージャープロジェクト(以下、FAIRプロジェクト)」を発表しました。これは、WordPressのプラグインとテーマ管理に分散型アプローチを導入し、エコシステムの安定性と革新性をさらに高めることを目指すものです。
本記事は、FAIRプロジェクトの概要、その誕生の背景、主な特徴、そして潜在的な懸念について解説します。
WordPressの「FAIRプロジェクト」とは
FAIRプロジェクトは、WordPressプラグインやテーマの配布を、現在のWordPress.orgに集中させる方式から分散型で配布する方式に変更しようという取り組みです。このプロジェクトの推進によって、WordPress.orgへの依存度を下げることを目指しています。
「FAIR Package Manager Project」のGitHubページ
同プロジェクトは、2025年6月6日にWordPress開発者向けイベント「WordCamp Europe 2025」と並行して開催された「Alt Ctrl Org」で発表され、同日オープンソース技術を支援する非営利団体のLinux Foundationによって正式にリリースされました 。FAIRとは、Federated and Independent Repositories(連携型かつ独立したリポジトリ)の略です。
(参考)Linux Foundation、オープンソースCMSの安定性向上に向けた「FAIRパッケージマネージャープロジェクト」を発表(Linux Foundation Japan)
FAIRプロジェクトが生まれた背景
FAIRプロジェクトの誕生には、WordPressが長年抱えてきた構造的な課題が深く関係しています。
WordPress.orgの中央集権的な運用体制と不満
WordPress.orgの公式リポジトリは、セキュリティや品質を担保するために厳格な審査体制を敷き、すべてのプラグインやテーマを中央集権的に管理してきました。この仕組みは、安定性と信頼性を提供する一方で、開発者にとっては審査の遅延や運営方針への不満といった摩擦も生んでいました。
WP Engine問題で明らかになった構造的リスク
転機となったのは、2024年に発生したAutomattic(WordPressの主要運営企業)とWP Engine(WordPress特化のホスティング企業)との間の訴訟です。
AutomatticのCEOでありWordPress共同創設者でもあるマット・マレンウェッグ氏がWP Engineを公に批判し、同社が提供する有料プラグイン「Advanced Custom Fields(ACF)」を公式ディレクトリから無断で削除したことが発端となり、法的対立に発展しました。
この一件は、WordPressコミュニティ内におけるAutomatticの影響力や透明性に対する疑念を強める結果となりました。
分散型モデルの必要性からFAIR誕生
こうした背景のもと、WordPressの開発に携わるコントリビューターたちからは、Automatticの影響力が及ばない、よりオープンで分散型の配布モデルを求める声が高まりました。
公式リポジトリに依存しない形でプラグインやテーマを管理・配布できる仕組みの必要性が明確になり、そのニーズに応える形で「FAIRパッケージマネージャー」プロジェクトが立ち上がりました。
FAIRの4つの特徴
FAIRプロジェクトの最大の特徴は、中立的な非営利団体であるLinux Foundationの支援のもとで運営されている点です。さらに、FAIRはユーザーと開発者双方の利便性を高める4つの特徴を備えています。
※FAIRは以下から他のプラグインと同じようにインストールできます。
(参考)FAIR プラグインリリースページ(2025年7月時点 バージョン0.3.0)
信頼できるプラグイン・テーマの集約
複数のリポジトリで提供しているプラグインの配布元を一つにまとめることで、統合された検索・配布ネットワークを構築し、ユーザーが安全に運用できる体制を構築します。
セキュリティの強化
コード署名をつけた安全なパッケージの配布や暗号化セキュリティ対策の改善、企業が独自に管理できるリポジトリの運用など、安全にWordPressを利用できる機能を提供します。
GDPR(個人情報保護)への対応
欧州のGDPRをはじめとするプライバシー規制への対応も、FAIRの重要な設計思想の一つです。ブラウザのデータ送信を最小限に抑えるほか、ソフトウェアが自動的に開発元に送信する使用状況データ(テレメトリ)を大幅に削減することでプライバシーを保護します。
分散型(フェデレーション)アプローチ
FAIRの大きな特徴として、複数のリポジトリが相互に連携する「フェデレーション」モデルを採用している点が挙げられます。これにより、開発者は自分のルールでパッケージを公開でき、WordPress.org以外のリポジトリでもプラグインやテーマを提供できるようになります。また、ユーザーは複数の信頼できるソースから選択できるようになります。
FAIRプロジェクトの懸念
FAIRプロジェクトには多くの利点がある一方で、リポジトリを分散することによる管理の難しさやユーザーの混乱などの懸念も指摘されています。
品質管理の難しさ
分散型であるがゆえに、すべてのリポジトリで一貫した品質管理を行うのが難しく、悪意のあるコードが混入するリスクが高まる可能性があります。
リポジトリの乱立による混乱
複数のリポジトリが乱立することで、ユーザーや開発者が「どこから入手すればよいのか」「どれが信頼できるのか」といった混乱を招く恐れがあります。
秘密裏に進められたことへの不信感
プロジェクトの立ち上げが一部の関係者によって非公開で進められたことに対し、コミュニティからの透明性を求める声も上がっています。
wp.geek編集部 解説
FAIRプロジェクトが誕生した背景には、オープンソースであるはずのWordPressに対してAutomatticが強い影響力を持っていることに加えて、WP Engineとの一件で中立性から逸脱した対応を取ったことに対する開発者からの強い不満があります。
こうした課題に対する解決策として分散型の配布モデルを採用しましたが、分散型であるがゆえに、品質管理やユーザー保護の基準をどのように担保するかという別の大きな課題に向き合う必要が生じています。
前述のマット・マレンウェッグ氏は、FAIRプロジェクトに対して「信頼性・安全性・ユーザー保護が担保されるなら議論の余地はある」として肯定的な姿勢を見せています。しかし、現段階ではその仕組みが不十分であるため、現在のWordPress.orgが築いてきた信頼性を損なうリスクがあることを危惧しており、以下の点について懸念を表明しています。
公式リポジトリ(集中管理) | FAIR(分散型) | |
---|---|---|
信頼性の問題 | 厳格な品質管理を実施している | 充分な品質管理がされていない可能性があり、信頼性に問題が生じる |
ユーザー保護の問題 | マルウェアや悪意のあるコードが見つかった場合、即時削除や自動アップデートで保護することが可能 | 集中管理ができないため問題が起きても対応できない。またメンテナンスの問題が生じやすい |
ユーザー利便性の問題 | 説明文やサポートフォーラムなど統一されたUX(ユーザー体験)を提供 | 開発者ごとにバラバラな形式で提供されるため、検索性・アクセス性・更新通知の整合性が崩れる |
「信頼の枠組み」が崩れるリスクがある
WordPress.orgでは、厳格なレビュー体制により、セキュリティ・品質・互換性が担保されています。FAIRのように誰でもホストできる仕組みでは、「誰がレビューしたのか分からない」という不透明さが生まれ、信頼性が損なわれる可能性があります。
ユーザー保護が困難になるリスクがある
WordPress.orgでは、悪質なプラグインが発見された場合、即時削除や自動アップデートでユーザーを保護できます。しかし、分散型ではこうした集中管理が難しく、マルウェアが放置されるリスクが高まります。
一貫性のないユーザー体験になるリスクがある
公式リポジトリでは、説明文、翻訳、サポートなどが統一されたUXとして提供されていますが、FAIRではリポジトリごとに仕様が異なるため、ユーザーが混乱する可能性があります。
まとめ
FAIRプロジェクトが掲げるビジョンは、オープンソースの理念に忠実であり、WordPressエコシステムにおける理想的な進化の形です。しかし現実には、信頼性や安全性に関する懸念が依然として存在しています。分散型モデルの特性上、品質管理やセキュリティ対応の統一が難しく、ユーザー保護の観点からも課題が残されています。
WordPress開発者にとって、FAIRと従来のWordPress.orgのどちらが最良の選択肢となるかは、現時点では明確な答えが出せません。今後の技術的な成熟度、コミュニティの支持、そして運用体制の整備が、選択の鍵を握ることになるでしょう。
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